クモッタキ
子供の頃の遊んだ記憶は夏の記憶が多い気がする。
夏休みがあるからか、それとも夏の強い日差しが記憶を鮮明に焼き付けるのか。
僕は子供の頃、夏と言えば連日水につかってばかりいた。
夏休みになると解放される小学校のプールや海などへ毎日のように通っていた。
そんな中でも、最近よく思い出すのが滝で遊んだ記憶である。
僕は南房総の出身だが、僕が子供の頃には川で泳げる場所があった。
川と言っても細い川だが、上流には人家がまったくなく、水はキレイそのもの。
その川でいつも泳ぎに行くのは「クモッタキ」という滝だった。
漢字で書くと「蜘蛛滝」だと思うが、看板がある訳でもないし、地図にも乗っていないので定かではない。
滝つぼから蜘蛛のお化けが出てきて人を引きずり込んだという話があったような無かったような・・・
そのような話があるくらいだから、滝つぼはとても深く、滝の上から飛び込む事ができた。
飛び込むのには最適な場所が3カ所あった。
まずは初級。
滝の脇から少し下へ降りた所。
初心者はもちろん、ウォーミングアップにも最適な高さ。
バック転や前転しながら飛び込むのにもちょうどよかった。
次は中級。
普通に滝の上から。
高さの記憶は曖昧だが5m位はあったと思う。
基本的には足から飛び込む高さだったが、何度か勇気を出して頭から飛び込んだ事があった。
最後は上級。
滝のサイドが崖になっていたのだが、その崖の中腹からせり出した木の上から。
滝よりも高い位置から飛ぶので当然怖く、数回しか挑戦しなかったと思う。
滝の脇には大きな一枚岩があり、飛び込んだり泳いだりして疲れた体を岩の上で休めた。
川なので水が冷たく体が冷えるので、岩の上では焚き火をした。
燃やし始めはいつも週間少年ジャンプだった。
岩の上で休んでいるとアブがよく飛んできた。
刺されては痛いと、アブがくると岩の上から水の中へ飛び込んだ。
クモッタキへ行くまでは自転車で1時間近くかかったと思う。
行きはずっと登りなので、なおさら時間がかかるのである。
それだけ遠いし、クモッタキの先は特に何かある訳でもないので、他の人はほとんど来なかった。
誰にも邪魔されない、僕たちだけのクモッタキだった。
何年か前に、この川にもダムができた。
僕たちのクモッタキはダムの底へ沈んでしまった。
もう2度とクモッタキから飛び込む事はできない。
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